カカオによる
森林破壊の問題
カカオ栽培のために森林破壊が
起こっている事を知っていますか?
カカオはどのような木?
カカオ生産による森林破壊の問題を見る前に、カカオの木はどのような木なのか見ていきましょう。
カカオの学名はテオブロマ・カカオ(Theobroma cacao.)といい、テオブロマはラテン語で「神の食べ物」という意味です。
アオギリ科の樹木で、高さ7 ~ 10m とそれほど大きい木ではありません。
幹や枝に小さな花がたくさん咲きますが、そのうちの数十が大きな莢に生長して、直接ぶら下がって黄色く熟します。
莢(カカオポッド)には白い果肉に包まれた種子が30 ~40 粒入っています。
中米から南米アマゾン川流域が原産とされていて、図1に赤く示したように、平均気温27 度以上、年間降水量2000ミリ以上の赤道周辺の熱帯地域が生産に適しています。
カカオの栽培、
収穫から出荷まで
カカオは種から苗木を育てて、それを畑に植えて木に育てます。発芽後、4 年で実をつけ始めて、11 ~ 15 年が最も多く収穫できます。30 年以上の寿命があります。
【苗木】
黒い穴の開いたポリ袋に土を詰めて種を
播いて苗木を育てます。
【定植】
1 年ほど育てた苗木をカカオ農園に植え ます。
【収穫】
黄色に色づいた莢をナタや先に金具のつ
いた棒で切り落として収穫します。
【発酵】
莢から白いパルプのついたままの豆を取
り出して、バナナの葉に包んで1 週間ほ
ど発酵させます。この発酵はチョコレー
ト特有な香りや風味を決める大事な作業
です。
【乾燥】
輸送中にカビなどが生えないように、天
日で1 週間ほど乾燥させます。
【出荷】
麻袋に詰められ、出荷されます。
カカオとガーナと日本
日本で使われるカカオはどこから来ているのでしょうか?
下の図は2020 年のカカオ豆の輸入量を調達国別に示したものです。その約8 割がガーナからのものです。
反対に次の図は2020 年にガーナから輸出されたカカオ豆の輸出量を示したものです。その8.3%が日本向け(第4 位)です。
日本とガーナはカカオ豆によって深いつながりがあり、それに起因する森林破壊についても、日本に大きな責任があると言えます。
カカオと森林破壊
ガーナでは、過去 30 年間で森林の65%を失いました。 右の図は GLAD アラート(ほぼリアルタイムで森林減少を知らせるレーダーアラート)により2001 年~ 2017 年の17 年間に確認された森林撹乱を赤く示したものです。 2022 年にはこのアラートで12,000ha(山手線の内側の2 個分)以上の森林撹乱が確認されています。 過去 4 年間(2019 年~ 2022)を見ても、森林の約 4.7% が失われています。 カカオの生産地域はガーナ南西部の熱帯雨林が広がる地域と重なっていて、森林破壊と深い関係があることが分かります。森林破壊へ対処の動き
世界の2大カカオ生産地である、コートジボワールとガーナの森林破壊へ対処するため、両国政府と大手チョコレート企業12 社が、「カカオと森林イニシアティブ(CFI)」を設立しました。 2017 年11 月の国連気候変動会議では、両政府とカカオ取引業者・大手チョコレート企業は、「カカオと森林イニシアティブ(CFI)行動枠組み」に署名しました。 2019 年には行動計画も発表し、西アフリカのカカオ農園の拡大による森林破壊を終わらせ、劣化した生態系の再生に取り組むことを期待されました。しかし、両国の森林破壊は未だに続いていて、その取り組みは進んでいるとはいえません。森林破壊はなぜ起こるのか?
ガーナの森林減少の原因は?
ガーナの森林減少の原因は、カカオ生産、商業伐採、鉱山の採掘活動と言われています。
特に、森林のカカオ農園への転換については、背景にカカオ農家が十分な収入を得られていないことがあります。収入を増やそうとカカオを植え付けるために森林を切り開いてしまうのです。
森林破壊が意味するところ
森林破壊は何を意味するのでしょうか?
大手のチョコレート企業はカカオと森林イニシアティブ(CFI)に参加し、森林破壊をなくし、荒廃した森林を回復させると公約していますが、未だに守られていません。
また、チョコレート企業はどこでどのように作られたカカオを仕入れているのか全てを把握できていません。森林破壊を監視するためのシステムも十分に導入されていないので、企業が仕入れたカカオが森林破壊をして作られたものであるかそうでないかがわからないのです。
板チョコのお金は
どこに行くのか?
カカオの生産は、その多くが家族経営の小規模農家によって行われていて、彼らは国連の定める1日1ドル90セントという国際貧困ライン以下で暮らしています。
一方で、図のように板チョコの価格の35%はチョコレート会社に、44%が小売業者に渡るのに対して、カカオ農家にはわずか6%しか渡っていません。
また、カカオは先物取引で取引されるため、需給のバランス以外にも、投資の対象として価格が大きく変動します。
そのため、カカオ農家は収入を増やすために、森林を伐採して新たなカカオ農園を開いたり、子供に農作業を手伝わせたりしなければならないのです。
植物同士や生態系の
相互作用を利用した
アグロフォレストリー
アグロフォレストリーは農業(Agriculture)と林業(Forestry)を組み合わせた造語です。
同じ土地に樹木と農作物を植え、植物同士や生態系の相互作用を利用して、複合的な農林業を行うことです。
カカオは、元々熱帯雨林の中で育つような、直射日光や乾燥を嫌う木でした。しかし生産効率を上げようと、直射日光のもとで単一栽培ができるように品種改良され、そのために多くの肥料や農薬を必要としてきました。
近年、森林破壊が進むにつれ、本来のカカオの生育環境に近づけるアグロフォレストリーの手法が注目されるようになりました。カカオの収量も、カカオだけ植えた単一栽培と比べ、同等かそれ以上になるというデータもあります。
アグロフォレストリーは破壊された自然林に代わるものではありませんが、カカオ栽培で破壊された森林を補い、修復することができます。
アグロフォレストリーの利点
アグロフォレストリーを導入することで、生態系にとっても、カカオ農家にとっても様々な利点があります。
樹木を植えることで、二酸化炭素の吸収が進み炭素を貯蔵します。 作物が利用できない深い土壌からの養分を、樹木が表土に還元します。 また様々な生物の棲み家をもたらして、病気や害虫を制御できたり、授粉者によって収量が増加します。
荒廃した森林の回復
植えた樹木が育つことで森林の機能が回復して、在来種が生育できるような環境が整い、生物多様性が保護されます。 また、断片化した原生林を繋ぐ役割も果たします。 表土の流出も押さえられ、それに伴う水質汚染もなくなります。 地域の湿度・降雨量が保持されます。
多様な収入・食料を提供
多様な樹木や作物を栽培するので、カカオ以外の作物からの収入や食料を得ることができます。 気候変動の影響などでカカオが不作の時に、他の作物によってリスクが分散されます。
アグロフォレストリーで
栽培される作物・樹木・果樹
アグロフォレストリーでは、カカオと並行して高木(用材)、中高木(果樹、有用樹)、作物(穀物・イモ類)など多様な樹木や作物を育てることができます。カカオ農家はそれらの生産物を自家消費したり、市場に出荷して収入を得たりすることができます。
アグロフォレストリーの取り組み例➀
ーウエスタン・ノース州アセンパナイェ村、クアパココ協同組合ー
レインフォレストアライアンスの認証を受けるクアパココ協同組合に属する農家のカカオ農園。
日陰樹(シェードツリー) を植える密度の基準は20 本/haですが、実際はもっと多くの日陰樹を植え(100 本/ha)、生長途中で間引いていきます。
この農場で見られた日陰樹の多くは植樹された在来樹エメリ
(Terminalia ivorensis.)
アグロフォレストリーのために伐らずに残した、15 年生のOdum(在来樹)
アグロフォレストリーの取り組み例➁
ーウエスタン・ノース州、ガーナ・カカオ委員会(COCOBOD)ー
ガーナ・カカオ委員会による、カカオ農園の再生プログラム
病気や老木で収量が落ちたカカオ農園を再生するために、一度カカオを切り倒して、新たにアグロフォレストリーを使用してカカオ苗を育てています。
カカオ苗と共にプランテーンバナナと日陰樹を同時に植栽
病気のため収量が落ちたカカオ農園
アグロフォレストリーの課題
アグロフォレストリーの定義を明確にして、農場レベルだけでなく、周辺の環境を含めた景観レベルをカバーするアグロフォレストリーの概念が必要です。
投入する資材・資金に対する農家への支援
アグロフォレストリーに必要な日陰樹や有用樹・果樹などの苗木、資材、資金など、アグロフォレストリーに移行するための農家への支援が必要です。
農家への教育・研修が必要
農家にはアグロフォレストリーに関わる知識や技術が不足しているので、それを補うための教育・研修が必要です。
まとめ
ガーナでのカカオ生産による森林破壊は、カカオ農家が十分に収入を得ていないことが一つの要因となっていました。
チョコレート企業は、自社のカカオをどこでどのように作られているかを把握し、森林破壊のないカカオを取り扱うように、トレーサビリティー(追跡可能性)と透明性を確保しなければなりません。また、モニタリングシステムを導入し森林破壊を監視するとともに、アグロフォレストリーを導入して、カカオ農家の生産・収入向上につなげていく必要があります。
それでは、カカオに起因する森林破壊の問題に世界の企業、日本の企業がどのように取り組んでいるのか見ていきましょう。