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百貨店への
アンケート調査(2024)
なぜ百貨店のアンケート調査
するのか?
みなさんはバレンタインデーのためのチョコを百貨店に買いに行きますか?この時期、百貨店の特設会場は所狭しと並べられたチョコを買うために整理券を求め、両手一杯に袋を抱える人たちで賑わっています。
関西大学の宮本勝浩名誉教授の試算によれば、2023年の日本におけるバレンタインチョコの経済効果は約1083億6936万円に上るそうです。そのバレンタイン商戦の主戦場が百貨店なのです。
しかしチョコレートの原料であるカカオの生産には様々な問題が潜んでいます。私たちはカカオの生産に起因する様々な問題を皆さんに知っていただく良い機会であると考え、その販売を手掛けている百貨店に対して、カカオに関する人権・環境についてのデューディリジェンスを行っているか毎年調査をしています。
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デューディリジェンスとは
そもそもこの聞きなれないデューディリジェンスとは一体何でしょうか?
日本ではデューディリジェンスという言葉は、M&A(合併や買収)の際に行う、投資対象についての事前調査をあらわす用語として広く使われてきました。近年では、企業のサプライチェーン(原料の調達から商品の製造、販売までの流れ)において、人権や環境などのリスクを特定し防止していくことに使われています。
チョコレートの原料となるカカオの生産に関連して、児童労働や強制労働、森林破壊、貧困などの問題があると言われています。企業は、取り扱う商品のサプライチェーンの中でこうした問題が起こっていないかを確認して公表することが求められています。
2024年12月に実施される予定で1年延期になってしまった、EU の森林デューディリジェンス規則(EUDR)では、カカオを含む森林リスク産品を EU 域内へ輸入できなくなり、企業はデューディリジェンス(リスク評価)を実施することが義務化されます。そのため、森林破壊を伴って生産されたカカオが規制の緩い日本市場に入ってくることが懸念されます。
調査結果
21の百貨店のうち5 つの百貨店から回答がありました(内1 つはアンケートには無回答)。
百貨店はチョコレートの製造を行っていませんが、バレンタインデーのイベントなどで多くのチョコレートを取り扱う以上、その裏に隠された人権・環境の問題と無縁ではありません。しかしアンケートへの回答の少なさを見るに、これらの問題に対して無関心な百貨店が多いことが分かります。
調査に協力していただいた各百貨店は、カカオ生産に関する人権・環境問題は把握しており、カカオに特化した方針は一部見られるものの一般的な方針に留まっています。チョコレートの提供者への対応も、リスク管理は行っており、サプライヤーの調達先に対する是正措置を求めたり、救済措置を取ることも一部の百貨店で行っています。カカオの問題に取り組む提供者との取引に関しては積極的に行う姿勢が見られますが、消費者向けにはまだ限定的な取り組みに留まっています。
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*京王百貨店は調査要請への回答はあったが、アンケートには無回答
― は全て無回答
評価基準
各質問に対する評価の基準は以下の通りです。
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調査の方法
2024年10月に21の百貨店に対してアンケートを送付し、カカオに関するデューディリジェンスの調査を行いました。 質問は以下の通りです。
- カカオ原料に関する森林減少などの環境破壊リスクや児童労働などの人権侵害リスクについてご存知ですか?
- 設問1のようなカカオ原料に関してリスクに対する方針を持っていますか?
- 常設のチョコレート提供者に対して、環境・人権のリスク評価を行っているか確認していますか?
- イベント時(バレンタインデーなど)のチョコレート提供者に対して、環境・人権のリスク評価を行っているか確認していますか?
- 設問3,4の評価プロセスにおいて、リスクがあると評価した場合、調達先に対して是正措置の要請や救済措置が実施されることをチョコレート提供者に対して求めていますか?
- 設問1のようなリスクに対処しているチョコレート提供者と取引をしていますか?
- 設問1のようなリスクについて消費者向けのイベントを開催していますか?
まとめ
カカオの生産には人権・環境の問題が潜んでいます。企業は自社の調達先でこのような問題が行われていないか確認し公表する、デューディリジェンスの実施が求められます。
私たちは、2024 年10月に21の百貨店に対してアンケートを送付し、カカオに関するデューディリジェンスの調査を行いました。
21 の百貨店のうち、アンケートに回答したのは4 つのみでした。それぞれ、カカオの問題については把握しているものの、カカオに特化した方針は少なく、提供者に対するデューディリジェンスの実施や、調達先に対する是正措置の要請や救済措置実施の要請は一部の百貨店では行われていませんでした。また、カカオの問題に取り組むチョコレート提供者との取引は積極的であるものの、消費者に対してカカオの問題に関するイベントの開催は限定的でした。
1年延長されたEU の森林デューディリジェンス規則(EUDR)が実施されるようになれば、森林破壊を伴って生産されたカカオが規制の緩い日本市場に入ってくることも懸念されます。日本企業もEUDRを遵守する形で調達先に森林破壊がないか確認し公表することが求められます。